味覚障害とは
「これまで美味しく食べていたのに最近味が変わったように思う」、「何を食べてもまずい」、「食材本来の味がしない、わからなくなった」、「料理の味つけが塩辛くなったと家族に言われる」――これらは味覚障害の兆しかもしれません。味がわかりにくいなど、たいしたことない、と考えてしまうかもしれませんが、美味しい食事を楽しむことができなければ、それこそ文字どおり「味気ない人生」になってしまいます。美味しい食事を楽しむには、「味覚」が非常に重要な働きをしているのです。
味覚には食べ物の味を感じるだけではなく、味から食欲を刺激したり、腐ってはいないか、毒をもってはいないかを判別して食べないようにするなどの役割があります。味覚障害になると食べる楽しみを失って食事が苦痛に感じてしまい、その結果、さらに食欲がなくなって食事量が減り、栄養不足(低栄養)になる…といった悪循環が生まれます。日本においても味覚障害の患者数は年間24万人1)にものぼり、決して他人事ではない身近な病気の一つなのです。
味覚障害の症状と原因
「最近味が変わったように思う」など、味覚障害には、さまざまな自覚症状のサインがあります。甘味、酸味、塩味、苦味、旨みが感じにくくなるだけでなく、渋味や金属味などの異常な味を感じたり、いつも通りなのに料理の味つけがおかしく感じたり…。症状はゆっくり進行するため、味覚障害に自分では気がついていない場合でも、家族や周囲の人が味覚異常に気がつくこともあります。例えば、甘いケーキが好きだった人が全く違う味のものを好むようになったり、何を食べてもおいしく感じないため自ずと食事量が減り、「痩せたんじゃない?」と周囲の人から指摘を受けて、はじめて味覚異常が発覚することもあります。家庭の中で普段から料理をする人が味覚異常を発症すると、料理に使う調味料が多くなったり、濃い味付けの料理が続いたりすることも、周囲の人が味覚異常に気がつくきっかけになります。
味覚障害のサイン
- 何を食べてもまずい
- 口が渇く
- 口の中がネバつく
- おがくずがたまる感じがする
- 舌がピリピリする
- 何を食べても苦い
- 特定の味がわからない
- 塩味がきつい
- 金属味がする
- しょう油味が苦く感じる
- 本来の食材の味がしない
- 口の中にトゲがある感じがする
- 味がしない、あるいは薄く感じる
- 味が濃く感じる
- 塩味と酸味を間違える
味覚障害の原因は様々あり、最も多いのは薬の副作用の一つである「薬物性味覚障害」(21.7%)です。その他に原因不明の「特発性味覚障害」(15.0%)、亜鉛不足が原因の「亜鉛欠乏性味覚障害」(14.5%)、ストレス等の心理的要因が影響している「心因性味覚障害」(10.7%)などがあります。2)近年は、高齢者の味覚障害が増加していると言われており、原因は種々です。そのうち、亜鉛欠乏性の味覚障害がありますが、これは普段の食事からの亜鉛摂取不足が原因である他、高齢者は元々高血圧などの慢性疾患を持っていることが多く、その治療薬には亜鉛の排出を促す作用をもつ薬が含まれている可能性もあります3)。
味覚を感じる仕組み
人はどのように「味」を感じとっているのでしょうか。味の判別には、舌や上顎、のどの奥に存在する「味蕾(みらい)」という組織が重要な働きをしています。味蕾は目に見えないほど小さな味を感じるセンサー(受容器)です。食べ物が口の中に入り唾液と混ざりあう際に、味蕾の中にある「味(み)細胞」が苦味や甘味といった味を感じ取って脳に伝達します。
味覚と亜鉛の関係
この味細胞は新陳代謝が盛んな短命の細胞です。常に生まれ変わりが行われており、この生まれ変わりには亜鉛が深く関わっています。亜鉛不足になると新しく作られる味細胞の数が減ってしまうことから、味センサーが正常に機能しなくなってしまいます。高齢者は、加齢により(味細胞の数自体は変わっていなくても)味センサーの機能が低下したり、亜鉛の摂取不足になりがちであるため、味覚障害を起こしやすい状態といえるでしょう。
そもそも亜鉛は体内では産生できず、また、一度にたくさん摂取して貯蔵する仕組みがないため、毎日の食事から必要な量を摂取するしかありません。亜鉛は牡蠣や肉に多く含まれるので、極端に野菜中心の食事や少食を続けていると亜鉛不足を招く可能性が高まります。亜鉛不足は食欲減退を起こすこともあるので、亜鉛不足による味覚障害は、さらなる食欲減退、そして亜鉛不足がより進んでしまうといった悪循環を引き起こしかねないのです。
味覚障害のセルフチェック
特に
- 飲んでいるお薬の種類が多い
- ストレスが多い
- 偏食や食事量が少なく、栄養が偏りがち
このような方は味覚障害になりやすいため、注意が必要です。
ご自身の味覚に対して気になることあれば、まずはセルフチェックをしてみましょう。チェックシートでひとつでも当てはまる場合は「味覚障害」である可能性があります。
早期に治療すれば、その分、治療効果も上がる可能性が高まります。そのためにも、味覚の異常に気がついたらまずは医師に相談してみましょう。
味覚障害セルフチェックシート
1) Ikeda M, Aiba T, Ikui A, et al: Taste disorders: a survey of the examination methods and treatments used in Japan. Acta Otolaryngol 2005 ; 125 : 1203-1210
2) Hamada N, Endo S, Tomita H: Characteristics of 2278 patients visiting the Nihon University Hospital Taste Clinic over a 10-year period with special reference to age and sex distribution. Acta Otolaryngol(Suppl) 2002 ; 546 : 7-15
3) 冨田 寛:薬剤性味覚障害. 味覚障害の全貌 2011 : 316-325