不妊とその原因
なかなか相談しづらい不妊の悩み。不妊とは、健康な男女が避妊をしないで性交しているにも関わらず、一定期間妊娠しないものをいいます。(日本産婦人科学会においては、1年程度妊娠しないものを不妊と定義しています。)
男女が出会い、結婚して子どもが生まれる……そう当たり前のように思っていても、なかなか「子どもが欲しいと思っても、授かることができない」人が多いのが現状です。特に日本においては晩婚化が進んでおり、不妊に悩むご夫婦も少なくありません。長年、不妊の原因は女性にあるとされることが多かったのですが、近年の研究で女性側、男性側いずれも原因があるということがわかってきています。
女性
女性側の不妊の原因は、大きく「排卵因子」「卵管因子」「子宮因子」「子宮頸管因子」などに分けて考えられます。そもそも女性の身体で妊娠成立までには、多くのステップを踏まなければなりません。女性ホルモンの影響を受けて成熟した卵子が卵巣から排卵されるとともに、タイミングよく精子と出会い、受精し、子宮内に着床しなければならないのです。各ステップにおいて何か問題があれば、それが不妊の原因となり得ます。
排卵因子
卵巣そのものに問題があって卵子がうまく育たなかったり、女性ホルモンのバランスが崩れて卵巣からきちんと排卵されないことが不妊の原因になる場合があります。これは生理不順の原因にもなりやすく、過度なストレスや極端なダイエットなどにより、生理不順をきたす若い女性にも見受けられる傾向にあります。生理不順を適切に治療せずそのままにしてしまい、その後不妊に悩む人も多いです。
卵管因子
排卵された卵子が、卵巣から子宮へ向かうために通る道を卵管といいます。「卵管内の幅が狭くなる(卵管狭窄)」や、「なんらかの原因で卵管が詰まる(卵管閉塞)」が不妊の原因になる場合があります。例えば、「性感染症(性器クラミジアなど)」によって卵管のまわりが炎症を来し癒着してしまうと、卵子が卵管を通れず、不妊につながります。
子宮因子
子宮そのものの機能に問題があり、受精卵が着床しにくかったり、着床してもすぐに流産してしまう場合があります。子宮粘膜下筋腫などの病気などが原因になる場合もあります。
子宮頸管因子
子宮の下の方にある管状の部分を子宮頸管といいます。何らかの原因で子宮頸管が狭まってしまうと、精子が子宮内へ進入できないため、不妊の原因となる場合があります。
男性
男性側の不妊の原因は、大きく「造精機能障害」「性機能障害」「精路通過障害」などに分けて考えられます。
造精機能障害
精液中の精子の数が少なかったり、精子の動きが悪いと、受精しにくくなります。精巣での精子形成や、精子が成熟する過程に異常があると、不妊の原因となる場合があります。
性機能障害
性交時に勃起ができず挿入ができなかったり(勃起不全)、勃起はするもののうまく射精できなかったり(射精障害)することも不妊の原因の一つです。
精路通過障害
精子は作られているものの、精子が通る道が詰まっていることで、精液中に精子がない場合があります。
性腺機能不全とは
このように不妊の原因は様々あります。中でも、卵巣や精巣の機能異常をまとめて『性腺機能不全』といいます。性腺とは、女性の場合は卵巣、男性の場合は精巣を指します。卵巣や精巣そのものに異常がある場合もありますが、女性ホルモンや男性ホルモンの分泌に関わる視床下部や下垂体という脳の一部の異常が原因となることもあります。脳腫瘍などが視床下部や下垂体に影響を及ぼす場合も、性腺機能不全を引き起こすことがあります。
女性
女性の場合、卵巣そのものに異常をきたす疾患として、性染色体異常によるターナー症候群*などがあります。視床下部や下垂体に異常をきたしている場合は女性ホルモン分泌異常により月経不順・更年期障害のような症状や、排卵障害等も引き起こします。
*ターナー症候群: | 女性が通常持っている2本のX染色体を1本しか持っていない、またはX染色体の一部に欠損があることが原因で起こる低身長です。 |
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男性
男性の場合、精巣そのものに異常をきたす疾患として、性染色体異常によるクラインフェルター症候群**などがあります。視床下部や下垂体に異常をきたしている場合は男性ホルモン分泌異常により、性欲低下や勃起障害などの症状が現れ、不妊の原因になりやすいといえます。
**クラインフェルター症候群: | 男性の性染色体にX染色体が1つ以上多いことで生じる疾患です。 |
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亜鉛と性腺機能不全の関係
不妊の原因に亜鉛が関係していることもあります。亜鉛は人の身体に必要な栄養素の一つであり、身体の中で細胞分裂や新陳代謝に非常に重要な役割を果たしています。亜鉛は皮膚の代謝や子どもの成長促進、味覚の維持や免疫機能(感染症を防ぐ、傷の回復を促すなど)の維持など、多くの働きをしているのです。
特に生殖に関連する部分でいえば、男性ホルモンの分泌促進や、妊娠の維持にも亜鉛が関与しています。そのため、亜鉛が不足すると男性の勃起不全や性腺の発達・機能不全が引き起こされます。実際「精液中の亜鉛濃度と男性の不妊症に相関関係が認められる」とする研究や、亜鉛不足によって精子形成に障害をきたしているという報告もあります1)。
1)児玉 浩子ほか. 日本臨床栄養学会雑誌 2018; 40(2): 120-167
http://jscn.gr.jp/pdf/aen2018.pdf