食欲低下とは
「なんだかお腹が空かない」「食事を用意するのもめんどくさい」「食事が用意されても食べる気がしない」「あっさりしたものばかりなど、極端に偏った食事が続いている」など多くの人が一度は経験したことがあるのではないでしょうか。この「食べたいという欲求が弱くなったり、無くなった状態」は食欲低下、食欲不振と呼ばれる症状です。食欲低下が続くと、身体に必要な栄養が不足して様々な悪影響を引き起こしかねません。人の身体は食べることでしか維持ができず、食事は生命活動を維持する上で欠かせない行為といえます。
食欲低下の症状
食欲低下、食欲不振は「食べたい気持ちにならない」だけでなく、「食べたいけれどあまり量が食べられない」状態であることも含みます。併せて、胃痛や腹痛などの胃腸症状や、食事をしないことによる体重減少なども示すことがあります。一般的に、これらの症状は一時的であることが多いですが、長期間(2週間以上)続くこともあり、注意が必要です。食欲低下は「気になる症状ではあるものの、特に日常生活に支障がなければいいか」とそのまま放置されがちですが、なにか病気のサインかもしれません。
食欲低下の原因
食欲は、脳の視床下部という部分に存在する満腹中枢(お腹がいっぱいと感じる)と摂食中枢(何か食べたいと感じる)に働くブドウ糖でコントロールされています。
胃が空っぽになったり、運動で血液中のブドウ糖が減ってくると摂食中枢が働き、食欲を感じるようになるのです。逆に、胃に食べ物が入ることで胃が拡張したり、血液中のブドウ糖が増えると接触中枢の働きが抑えられると同時に満腹中枢が働き、食べたいという欲求が抑えられるようになります。
視床下部は食欲だけでなく、体温調節やストレス応答、睡眠覚醒などの多彩な生理機能を調節・管理しており、自律神経(交感神経・副交感神経)(※)の機能や内分泌などを総合的に調節することで、人が生きていくために非常に重要な役割を果たしているのです。そのため、ストレスで自律神経のバランスが崩れたり、内分泌系の病気等、さまざまな原因で食欲低下をきたすことがあります。
※自律神経:自律神経は、内臓の働きや代謝、体温などの機能をコントロールするために、みなさんの意思とは関係なく24時間働き続けています。昼間や活動しているときに活発になる「交感神経」と、夜間やリラックスしているときに活発になる「副交感神経」の2種類があります。
病気によるもの
食欲低下をきたす病気は胃炎や胃・十二指腸潰瘍といった比較的身近な病気から、胃ガン、大腸ガンなどの消化器系のガンや肺結核、悪性リンパ腫、白血病などの重大疾患まで多くの病気があります。その他、内分泌系の病気も食欲を調節する視床下部に影響を与えるため、食欲低下の原因となります。
消化器系:胃炎、胃ガン、胃・十二指腸潰瘍、潰瘍性大腸炎、肝硬変、急性肝炎、膵ガン、大腸ガン、胆嚢炎など
循環器系:うっ血性心不全など
呼吸器系:肺結核、肺気腫など
血液・免疫系:悪性リンパ腫、白血病など
内分泌系:甲状腺機能低下症、アジソン病など
精神神経系:うつ病、自律神経失調症、統合失調症など
その他:インフルエンザ、その他感染症など
薬によるもの
薬の副作用として食欲低下を引き起こすこともあります。多くの抗ガン剤では悪心・嘔吐、下痢、便秘、腹部膨満感などの消化器症状の副作用や味覚異常、全身倦怠感などの副作用に伴って食欲低下を認めることがあります。その他、普段からよく使うような風邪薬や解熱鎮痛薬でも食欲低下の副作用は報告されており、多くの薬の副作用として食欲低下は認められています。
ストレス
日常生活における過度なストレスも食欲低下の原因となります。職場での人間関係や仕事のプレッシャー、家庭でのトラブルなどの悩みや不安による精神的なストレスは交感神経を過剰に刺激します。そのため、消化吸収を促進する副交感神経の働きが抑制され、食欲低下を引き起こしやすくなります。
生活習慣の乱れ
運動不足や睡眠不足など、不規則な生活習慣も食欲低下の原因となります。また、睡眠不足などの不規則な生活は自律神経のバランスが崩れる原因となり、胃痛や腹痛などの胃腸症状や食欲低下を引き起こします。
食欲と亜鉛不足の関係
亜鉛は体内でたんぱく質の合成や味覚の維持、こどもの身長の伸び、皮膚の代謝や免疫機能など、多くの生体機能に関与しています。
そのため、食欲不振で亜鉛を含む食品の摂取が不足すると、亜鉛不足になる可能性がありますので、注意が必要です。
1)児玉 浩子ほか. 日本臨床栄養学会雑誌 2018; 40(2): 120-167
http://jscn.gr.jp/pdf/aen2018.pdf